
肥満(BMI25以上)の女性が妊娠・出産する場合、母体と胎児の双方にさまざまなリスクが生じる可能性があります。
肥満も妊娠もインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)を高めるため、この2つが重なることで代謝異常が起こりやすくなることが背景にあります。
肥満による影響は、妊娠しにくさだけではありません。妊娠中の合併症や赤ちゃんの発育、帝王切開などの分娩時のリスク、さらに出産後の合併症にも関係しています。
ここでは、妊娠中から出産後まで、肥満が母体と胎児にどのような影響を及ぼすのか、また妊娠前からできる体重管理について詳しくご紹介します。

肥満妊婦は、妊娠中のさまざまな合併症が起こるリスクが高くなります。
代表的なものが、妊娠高血圧症候群と妊娠糖尿病です。
妊娠高血圧症候群は、妊娠中に血圧が高くなる病気です。重症化すると、子癇前症(高血圧に加えて、尿にたんぱくが出るなどの症状を伴う状態)や、さらに進行して子癇(けいれんや意識障害が起こる状態)に至ることもあります。
妊娠糖尿病は、妊娠中に血糖値が高くなる状態です。食事療法を基本とし、血糖値の管理が難しい場合にはインスリン療法が行われます。
また、初めて出産する肥満妊婦では、BMIの上昇に伴って胎児死亡との相関が認められています。死産のリスクは、妊娠28週以降では正常体重の方の約2倍、37週以降では約3倍に高まるとの報告があります。
このように、肥満妊婦では妊娠中にさまざまなトラブルが起こり、入院による管理が必要となることもあります。
そのため、分娩前のBMIが35以上の初産婦では、妊娠中や出産時のさまざまなリスクを考慮し、入院中にハイリスク分娩等管理加算が保険診療で加算されます。

母体の肥満は、胎児の発育にも影響することがあります。
杏林大学の研究では、妊娠糖尿病のない正常耐糖能の肥満妊婦であっても、妊娠後期(30週・36週)に胎児の腹囲が非肥満群と比較して有意に大きくなることが示されました。
腹囲が大きかった胎児の半数以上は、在胎不当過大児(LGA:妊娠週数に対して体格が大きい赤ちゃん)として出生しており、肥満そのものが胎児の過剰発育を促す要因となる可能性が示唆されています。
胎児が過度に成長すると、出生体重4,000g以上の巨大児となることがあります。
巨大児になると、肩甲難産(赤ちゃんの肩が産道に引っかかり、出てきにくくなる状態)、児頭骨盤不均衡(赤ちゃんの頭の大きさと母体の骨盤の大きさが合わず、赤ちゃんが産道を通りにくい状態)、分娩時の弛緩出血(出産後に子宮がうまく収縮せず、出血が続く状態)などの合併症につながる可能性があります。
また、在胎不当過大児では、出生後にも低血糖、赤血球増多症(赤血球が増えて血液が濃くなる状態)、高ビリルビン血症(黄疸が強くなる状態)、呼吸障害などのリスクがあります。
さらに、母体に妊娠糖尿病や肥満がある場合、胎児の先天異常のリスクも上昇することが知られています。
特に血糖コントロールが不良な場合には、脳・心臓・腎臓・消化管・下部脊椎などの構造異常が増加します。

肥満妊婦では、帝王切開になる割合が明らかに高くなります。
初めて出産する方の帝王切開の頻度は、BMI30未満で20.7%であるのに対し、BMI30〜35では33.8%、BMI35〜40では47%に達するとのデータがあります。
日本産婦人科医会も、肥満妊婦では非肥満妊婦より帝王切開率が高く、手術前後の合併症も多いため、予防策が重要であると指摘しています。
また、帝王切開を行う場合には、麻酔の管理が難しくなることも重要な問題です。
肥満により、腰椎麻酔や硬膜外麻酔での穿刺が技術的に難しくなるほか、全身麻酔が必要になった場合には、気管挿管の難易度も上がります。
肥満妊婦では、気道のむくみや首まわりの脂肪の蓄積などにより気道確保が難しくなり、挿管困難症例となるリスクが高まります。
そのため、必要に応じて麻酔科と事前に連携し、安全に出産できる体制を整えておくことが重要です。
また、経腟分娩を試みる場合でも、巨大児に伴う肩甲難産や、児頭骨盤不均衡による分娩遷延のリスクが高くなります。その結果、緊急帝王切開に移行する頻度も高くなります。
出産が終わったあとも、肥満に伴うリスクは続きます。
帝王切開後の創部感染や子宮内膜炎の発症率が高くなるほか、深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症といった血栓性合併症のリスクも上昇します。
帝王切開後は、経腟分娩と比較して肺血栓塞栓症の発症頻度が約22倍に達するとされ、肥満はこのリスクをさらに高めるため、注意が必要です。
そのため、早期離床や弾性ストッキングの使用など、積極的な予防策が求められます。
また、分娩後の弛緩出血も肥満妊婦で頻度が高く、大量出血への備えが必要となります。

ここまで見てきたように、肥満は妊娠中だけでなく、出産時や産後にもさまざまなリスクと関係しています。
これらのリスクの多くは、妊娠前の段階から適切に体重を管理することで、軽減できる可能性があります。
妊娠前の減量がリスクを低減する最もよい方法であることは多くの報告で一致しており、妊娠前のBMIに応じた適切な体重増加量を守ることも重要です。
肥満妊婦(BMI30以上)の場合、妊娠中の推奨体重増加量は5〜9kgに抑えることが米国医学研究所によって提唱されています。
ただし、妊娠中に自己判断で無理なダイエットを行うことは避け、妊娠前から自分の体重や健康状態について考えておくことが大切です。
肥満は、妊娠中の合併症だけでなく、出産方法や赤ちゃんの発育、産後の合併症など、妊娠・出産のさまざまな場面に影響する可能性があります。
だからこそ、妊娠を希望している方は、妊娠してからではなく、妊娠前から体重や生活習慣を見直しておくことが大切です。現在のBMIや健康状態によって、必要な体重管理の方法や目標は異なります。肥満が気になっている方、妊娠を希望しているけれど今の体重で妊活を始めてよいのか気になっている方は、まずは医師に相談してみましょう。
あおば通りかずみクリニックでは、妊娠前から産後まで、女性のライフステージに合わせたダイエット・体重管理をサポートしています。
妊娠・出産を見据えて、今のうちから体を整えておきたい方も、お気軽にご相談ください。

執筆
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